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Creative X-Labって何?

    エンタテインメントとテクノロジーを掛け合わせたクリエイティブを通して、多岐にわたるビジネスソリューションを提供してきたソニー・ミュージックソリューションズ。その内部にクライアントワークと並行して、最先端の技術と思考を融合させた実験的プロジェクトも展開するクリエイティブ・チーム「Creative X-Lab」が立ち上がった。すでにCreative X-Labでは複数の案件を手掛けてきたが、その根幹にある哲学はまだ伝え切れていない。熱狂と共感を創造してきたエンタテインメントのDNAと、自由なクリエイティブマインドから生み出される「フィロソフィーベースのデザイン」とは? Creative X-Labが見据える「この世界のありたい未来と感動」についてメンバーに語ってもらった。

    • Kensuke AokiProducer
    • Takumi Kawamoto
    • Kenichiro ShirotaCreative Director
    • Kanta NakanoDesigner
    <改めてCreative X-Labとは何か>

    【代田】Xには4本の斜線が飛び出していますよね。Aboutのページでも図解しているように、この4本はそれぞれBusiness・Technology・Creativity・Entertainmentに繋がっています。一般的にイノベーションを生み出す組織の要諦としてBTC(Business・Technology・Creativity)の3要素が挙げられますが、ここに僕らのDNAであるEntertainmentを加えて取り組んでいく。そうしたコンセプトのもと立ち上げたのがCreative X-Labです。具体的にはこれまでソニー・ミュージックソリューションズで手掛けてきたコミュニケーションデザインに加えて、サービスデザイン、つまり新規ビジネス、イノベーションなどをデザインしていく機能も備えています。そしてその僕らのクリエイティブにおいて根底にあるが「哲学思考」です。

    【川本】Aboutでも「私たちはフィロソフィーベースのデザインを通して、ココロの動くコト・モノ・環境を創造します」と謳ってますよね。じゃあ「そもそもフィロソフィーベースのデザインとは何か?」というところから紐解いていきましょうか。

    【代田】フィロソフィーベースのデザインを僕が明確に意識したのは、大学院時代にデザイン思考を学んでいた時です。デザイン思考は、新しいビジネスを考える時に、フィールドワークを通して生まれる顧客への共感をもとに、プロトタイプを作りながら、顧客と共に価値を生み出していく、イノベーション創造のメソッドと理解しています。そのデザイン思考の最初のプロセスにあったのが「哲学とビジョン」なんです。
    この場合の哲学というのは「社会的背景を含めた問題意識から生まれ、作り手の『こうありたい、こうあるべきだ』という強い思いが込められているもの」のことで、最初からそこにマーケット動向みたいなことは存在しないんです。あくまで作り手の強い想いが重要でした。このサービスデザインのメソッドを覚えていて、ふと思い立って、これをクライアントワークのコミュニケーションデザインに取り入れたら実は非常にうまくいったんです。その一つが読売巨人軍の例だと思っています。
    私はジャイアンツに対して、「球界の枠を超えて、一流のブランドとして存在し、スポーツ界・社会を牽引する存在であって欲しい」と思っていました。その哲学起点で発想していくと「では一流のブランドってなんだ?」となり、さらに色々調べていくと、エルメスや虎屋のような「100年続くような一流ブランド」には共通して、「不易流行」という「変わらないものと、時代に合わせて変えるべきものがある」という考え方に出会いました。そして、ジャイアンツの伝統=「栄光」というキーワードに行きつき、それを「栄光という光」というモチーフに見立て「ボリュメトリックキャプチャやVFX」などの先端的技術を活用し表現する。このように最初に立てた哲学が、クリエイティブの型まで決めていってくれました。この時点で、他チームでは語れない非常に独自性の高いものになっていて、これは「マーケット(市場調査)ベース」発想のクリエイティブでは成しえないと思ったのです。

    【青木】たしかに広告代理店のクリエイティブ・ブティックなども僕らと同じようにコミュニケーションデザインを手掛けてますけど、基本的にそのベースにはマーケットがありますよね。もちろんどっちが正解というわけではなく、あくまで付いてる"筋肉"の違いだと思うんですけど、やっぱり僕らはエンタテインメントの会社ですから。

    【代田】まさにそこなんですよね。エンタテインメントのヒットの多くは、市場調査から生まれてきたわけじゃないと思うんです。個人の圧倒的な情熱や想いがとてつもないメガヒットを生んできた。つまりマーケット自体を創ってきた歴史ですね。そういうものづくりをしてきたのがソニーミュージックの歴史にはあるわけで、その意味でも僕らには「フィロソフィーベースのデザイン」という発想がDNAとして染み付いてるんじゃないかと思うんです。

    【中野】僕は新卒3年目なんですけど、学生時代はクライアントなり、相手から提示されたお題を的確に返していくのが社会人の働き方だと思ってたんです。だけどここに入社してみたらぜんぜんそんなことなくて、むしろ自分の考えてることやクリエイティブをどれだけ提示して実現できるかが試されてるなって感じてます。

    【川本】時には厚かましさも必要だったりね(笑)。

    【青木】そうそう(笑)。でもたとえばアーティストと仕事してると、単に向こうの意向を聞いて撃ち返してるだけではいい答えは出ないじゃないですか。僕らはまったく違う角度からの意見もバンバン言うし、それによって最初に取り組んでた課題とはまったく違う着地をすることもある。その結果、ものすごく面白くて、かつ心が躍るクリエイティブになってたら大成功じゃないかという。

    【代田】僕はこのフィロソフィ・ベースのデザインを、コミュニケーションデザイン、サービスデザインの両軸で実行していきたいと考えています。一般にサービスデザインというとコンサルティング会社がやって、プランを企業にお渡しするイメージですが、弊社はエンタテインメントを実現するためのあらゆるソリューションを保有しているので、それを活用して、コンセプトだけでなく、実行までできてしまうのがひとつの特長かと思います。

    <Creative X-Labの創造する価値とは>

    【川本】仕事をする上で僕が理想としているのが「価値のあるものを作りたい」ということなんです。クリエイティブの価値というものを強く意識するようになったきっかけが、カニエ・ウェストとヴァージル・アブローが牽引した世界的なスニーカーブーム。少し前の話ではあるんですけど。

    【青木】カニエはクリエイティブを発揮できない状況にあるし(苦笑)、ヴァージルは残念ながら亡くなってしまったしね。

    【川本】そう。彼らの作り出したのって、ただのスニーカーなんです。だけど世界中の人が何百万円も出して求めたんです。それってなんだったんだろう?と考えると、その2人のバックストーリーや情熱、哲学とそれに熱狂したユーザーの熱量も含めて、そのスニーカーのデザインになっていたと思うんです。そうした数値化できないものをクリエイティブに落とし込んで熱狂と価値を生み出すって、ミリオンセラーを出す音楽とかにも近い発想だなって思ったんですよね。もちろん自分が2人みたいになりたいわけじゃないけど、「熱狂と価値を生み出すクリエイティブ」という姿勢はものすごく影響を受けました。クリエイティブの価値という意味でいうと、もう1つがNFTアート。あれって最初に登場したときには「この画像になんの価値があるの?」って思った人も多かったじゃないですか。だけどだんだんそこに人が集まって、熱狂やコミュニティが生まれて──。人の意思が集まって生み出される価値ってエンタテインメントにもすごく近い発想なんじゃないと思うんですよ。

    【代田】僕は「人は何によって感動するのか?」にめちゃくちゃ興味があるんですよ。たとえばベニスビーチで友達と夕日を見たりすると、めちゃ感動するわけですよね。そこには風があったり、海の音があって、地球が経てきた時間の連続性を感じたり。そういう圧倒的な「くらう」瞬間を、僕らのアプローチで作りたいと思っていて。でも、あの感動ってVRではまだ体験できないと思うんですよ。

    【青木】そもそもVRゴーグルを付けた時点で、ピラミッドを見るぞというテンションになってますよね。ガツンという感動が来る以前に。

    【代田】そう。VRゴーグルって付けてる感がハンパないですから、没入感も薄れてしまうんです。ようはメガネやAirPodsと違ってVRゴーグルはまだまだ身体化されていないんですよ。VRゴーグルがリリースから何年経ってもまだまだ大きな熱狂を生まないということは、何か課題があるはずなんです。「いかにしてモノが身体化するか」ということを紐解くことがおそらく次世代のゴーグルのデザインを決めるだろうし、さらにはその技術を活用して「思いっきりくらう」体験もデザインできるんじゃないかと思うんです。

    【川本】幸い僕らの近くにはソニーのR&Dがいますよね。

    【代田】そうなんです。何が言いたいかというと、感動体験をデザインする上で、哲学やサイエンス、エンジニアリングの進化は強く紐づくものです。そういう意味で、ソニーの技術開発の方々が周りにいて、最先端技術をクリエイティブに活用できるのもCreative X-Labの強みなんです。

    <Creative X-Labが“ラボ”である理由>

    【代田】大前提としてソニー・ミュージックソリューションズは事業会社なので、Creative X-Labではビジネスもきちんと成立させていきます。一方でCreative X-Labにはソニー・ミュージックソリューションズの5年後10年後のビジネスの種を作っていくという実験的な側面もある。そういう意味ではクライアントワークはもちろんやるけど、一方で完全なる自己発信のプロジェクトにも挑戦していきたいんです。

    【川本】そこでスタートしたのが、メディアアートへの挑戦です。これは完全にビジネスに関係のないプロジェクトなんですけど、Creative X-Labのメンバーそれぞれが個々に案件を抱える中で、何かみんなでゼロから取り組めたらいいなと思ってたんですよ。アートを出展するために今まで貯めてきた知見だけでなく、さらなる試行錯誤や研究が必要だし、この取り組みによってCreative X-Labに還元されるものって非常に大きいんじゃないかと思って提案したんですよね。これはCreative X-Labのメンバーである上東が言ってたんですが、アートはいわば毒のようなもの。だけど毒が作られた先に有用な薬もできるわけで、アートへの取り組みはさっき代田さんが言ってた「ソニー・ミュージックソリューションズの5年後10年後のビジネスの種」を模索する作業にもなるんじゃないかなと思います。

    【中野】こんなこと言ったらアレですけど、入社3年目にしてまだまだ大学の研究室であれこれやってる延長みたいな感覚があって。わりと自由に仕事させてもらってるからだと思うんですけど、今はそういう自分のクリエイティブを追求する時期なのかなと開き直ってます。そういう意味でもメディアアートへの挑戦はめちゃくちゃ楽しみです。

    【青木】もちろんクライアントワークには全力で向き合うし、いろんな業態のみなさんとガンガン協業していきたいです。その一方で自分たち発信のプロジェクトにも全力で挑む。その両軸を相互作用させていくことがCreative X-Labがラボたるゆえんだし、他のクリエイティブチームにはないエンジンにもなっていくんじゃないかという気がしています。

    <Creative X-Labが見据える未来像>

    【代田】やっぱり誰かを感動させるためには、まず自分の心が動かないとダメだと思っていて。そういう意味で、メンバーが興味がある分野や業種があったら、自由な意見を聞いてみたいんですよ。Creative X-Labは「世の中すべてがデザインの対象」なので。

    【青木】そう考えるとなんでもアリなんですよね。それこそCreative X-Labの視点で教育をデザインするとかも発想としてはあると思うし。

    【川本】僕は人が集まる場、まちづくりなんかにも興味があります。

    【中野】それよりはミニマムかもしれないけど、クリエイターのコミュニティみたいな場をCreative X-Labが持ってもいいんじゃないかと思うんです。そこに来たら誰かがいるヴィレッジ的な。

    【代田】それはアリかもしれない。バックグランドの違うクリエイティブに興味がある人が自由にコラボレーションできたり、作品を展示できたり、さらにそこに人が集まるという。そこから新しい何かを生み出していくような。

    【青木】Creative X-Labは濃いメンバー揃いなんで、面白い発想はバンバン出てくる。みんなには存分にとんがってもらって、その分、僕がプロデューサーの立場としてうまいことまとめます(笑)。ただ冷静な頭で正解を探すよりも「感動する方向に進もうよ」という思考は僕も同じ。どんなプロジェクトであっても、自分たちが鳥肌が立つかどうか。Creative X-Labのクリエイティブの原動力には常にそれがあり続けるんじゃないかと思います。