THE TOKYO MATRIX で CXL のクリエイターが創りたかったもの
2023年4月14日に東急歌舞伎町タワーに出現した「THE TOKYO MATRIX」は、数々のインタラクティブ施設を手掛けてきたソニー・ミュージックソリューションズが新たに手掛けるダンジョン攻略型施設。ソニーグループの最先端技術が随所に組み込まれた想像を超える体験が話題を呼び、オープンから2ヶ月でプレイヤーは述べ3万人を突破した。
ところがいまだ完全攻略者は2組だけという(2023年10月現在)。
「THE TOKYO MATRIX」の企画立ち上げから世界観のクリエイティブ、体験要素の設計、イベント運営などに携わってきたCreative X-Labのメンバーは、なぜこれほどまでに超ハードモードな"無理ゲー"をユーザーに提示したのか。そこに込められたフィロソフィーを聞いた。
- Jun YonezawaCreative Director
- Hiroshi Onita
- Hibiki SudoCreative Planner
──それぞれの 「THE TOKYO MATRIX」との関わりを教えてください。
【米澤】ソニー・ミュージックソリューションズが東急歌舞伎町タワーでインタラクティブ施設を手掛けることが決まった段階からプロジェクトチームに参加していました。当時はコロナ前ということもあり、インバウンドへの強い意識がありましたね。外国人観光客もそうですけど、初めて訪れた人にとって新宿・歌舞伎町って相当混沌とした街に映ると思うんですよ。
【首藤】ネオンでビカビカなところもあれば、怪しげな裏路地もあったりですね。
【米澤】そうそう。そんな複雑な歌舞伎町に負けないインパクトと、あとは日本の新しいクールも感じてもらえる施設にしたくて。どんなビジュアルでどんな体験をしたら「ワオ」と言ってもらえるだろうかと、ビルの着工前から何度も歌舞伎町を歩き回りながらイメージを巡らせていました。
【大仁田】僕がガッツリ携わるようになったのは、自社IPをベースに展開する体験型アトラクションという方向性が定まってからでした。過去にもアニメ「ソードアート・オンライン」(以下、SAO)の体験型展示などに携わってきたこともあり、SAO周りのクリエイティブディレクションとしてチームに参加することになりました。
【首藤】私はクリエイティブプランナーとして、主にゲームや謎解き要素の体験設計に関わらせていただきました。ただ、そもそも最若手の私がチームに引っ張ってもらえたのは、「アニメやゲーム好きなオタクの意見を聞きたいから」ということだったんですよ。当初は会議でもどんな体験だったらユーザーは燃えてくれるか、逆にこれは受け入れられないんじゃないかなど、無責任に意見を言わせていただくだけだったんですけど──。
【米澤】響さんの意見はみんなものすごく頼りにしてます。
【大仁田】彼がどう感じ、どうジャッジするかは間違いなくチームの指針になってましたね。
【首藤】もちろんユーザーの気持ちは一番わかってるつもりだという思いで携わってきました。コンテンツに対するユーザーの深度がますます深くなっている今、ちょっとでも「わかってない人が作ってるな」と感じさせてしまったら興味は急降下してしまいます。THE TOKYO MATRIXが真にユーザーをつかむコンテンツであるために、「お前は人生の中できちんとゲームやアニメに感動してきたのか?」「その感動をどうアウトプットに落とし込むのか?」ということを企画やクリエイティブのプロである先輩方に囲まれながら日々突きつけられている感覚がありましたね。
──現在、THE TOKYO MATRIXではアニメ『SAO』の世界を舞台に、主人公のキリトとアスナを"討伐"するためにクエストの攻略に挑むアトラクション「ソードアート・オンライン -アノマリー・クエスト-」が体験できます。そもそもソニーミュージックグループの幅広いIPの中でも、なぜ『SAO』がチョイスされたのでしょうか?
【米澤】IPが決まる前から会議で何度か出ていたのが「無理ゲー」というワードでした。近年、主に若者の間で未来が見えなくなっているというか、「人生は無理ゲーだ」みたいな言説が定着していますよね。
【米澤】だけどエンタテインメントにはそんな閉塞した現実を超えて希望を見せる力があると僕らは信じてこの仕事をしている。THE TOKYO MATRIXのミッションを超高難度に設定したのは、無理ゲーに立ち向かう体験をしてもらいたかったからなんです。最初はクリアできなかったミッションも、何度もチャレンジすることで少しずつ切り開けたり、そうした成功体験みたいなものを積み重ねてもらえるアトラクションにしたいという意見はチーム全体で一致していました。
【大仁田】そうしたチームのフィロソフィーをTHE TOKYO MATRIXに込める上で、「ゲームをクリアして現実世界に生きて戻る」というSAOのストーリー性はまさにピッタリでした。また2~3人でパーティを組み、チームワークを駆使してミッションをクリアしていくという設計も、共に困難に立ち向かう仲間の存在という"希望"を提示する意味でも重要でした。中でも一番こだわったのは、SAOの主人公であるキリトとアスナを「ユーザーが倒すべき敵」に設定したところだったんですが。
【首藤】キリトはSAOの登場人物でも最強の存在。彼がパーティに加わってしまったら、無理ゲーではなくなってしまいますもんね。
【米澤】ミッションのクリアもキリトに任せておけばいいってなっちゃう。
【大仁田】そうなんです。SAOのスピンオフでもこれまでにない設定なので、製作委員会のOKが出るかどうかが懸念でしたが、無事通ったので「よしっ!」という感じで、そこから「アノマリー・クエスト」のオリジナルストーリーが一気に進みました。
【首藤】ReoNaさんの歌う「アノマリー・クエスト」のテーマソング 『Weaker』もめちゃくちゃ泣けました。あのMVは大仁田さんの仕事ですよね?
【大仁田】 『Weaker』、つまり"弱き者"という意味で、強大な何かにぶちのめされても諦めずに立ち向かっていくという、まさにTHE TOKYO MATRIXを象徴した歌詞を書いてくれたので、MVではアニメ『SAO』のストーリーを散りばめて、SAOを知っているユーザーの感情を揺さぶるような映像を目指しました。
【米澤】アトラクションならではのワクワクとか驚きといった体験を超えて、心の深いところに訴えかけられるのは物語性のあるIPを絡めているからこそですね。
──「アノマリー・クエスト」のクリアはかなり高難度に設定されており、Quest3を攻略するパーティは10%以下と想定されているとのこと。最深部まで到達するとなると、さらに凄い確率になりそうですね。
【米澤】ミッションやバトルをクリアするには思考能力や運動能力、運などさまざまな要素が要求されます。もちろんチームワークも。ただ僕らが想定していた以上に早い段階でQuest6まで到達したパーティも現れましたね。
【首藤】もともとQuest6以降は隠し要素として設定していて、ユーザーには存在を明かしていなかったんです。みなさんQuest5でキリト、アスナを倒せば完全攻略だと思っていた。THE TOKYO MATRIXの場内モニターでは、待機しているユーザーが今まさにプレイしているパーティの進捗を見れるようになってるんですね。で、待機組がモニターを見守る中、あるパーティがQuest5をクリアしたところ「Quest6」と表示されて。そのとたん場内がザワザワし出したのが、私はすごくうれしかったんですよ。プレイしてるユーザーを超えて、見てるユーザーまでもが一体となっていたのが。
【大仁田】Quest5をクリアしたパーティが出た瞬間は僕らも鳥肌が立ったよね。もちろんその奥があることは知ってたにも関わらず、ユーザーのビビッドなリアクションにはやっぱり感動しました。
【米澤】遠からず完全攻略するパーティも出てくるんじゃないかと思います。運動能力を使うミッションでは、僕らの想定を超えた動きをされるプレイヤーもいますし。
【首藤】え、そんな動きする? みたいなですね(笑)。
【大仁田】アトラクションは展示と違ってユーザーがかなり能動的に動くので、実際にオープンしてみないと読めない要素もありました。そういう意味では僕らもオープンでミッションを完了したわけではなく、ユーザーのリアクションを見ながらまだまだアップデートの可能性があるなと思ってます。
【米澤】もちろん、新宿のお客さまにしっかり満足して頂いてからになりますが
コロナも明けて歌舞伎町もだいぶ外国人観光客が戻ってきたので、海外の方にも体験してもらいやすい施策も必要だなと感じてます。あとはTHE TOKYO MATRIXの海外展開も一同の野望にはあります。YouTubeのコンセプト映像にも海外の方から「自分の国でもやってほしい」というコメントが付いてるので、そこも1つの目標にしています。
【首藤】個人的には攻略情報を交換するサイトなど、この場所を起点としたコミュニティができつつあるのがうれしいですね。チームでもそのコミュニティからスタープレイヤーみたいな存在が生まれたりしたらいいねってよく話してるんですよ。それもまた無理ゲー感の漂う空気を打ち砕く、1つの希望になったらいいよねって。